2025 ELMS R3 Imola

週末を通してフェラーリ最速。上位入賞が期待されたものの、他車のクラッシュに巻き込まれ、レースを終える結果に。

Qualifying (IMOLA) – 4th (1:44.496)
Race (IMOLA) – DNF(+ 0 point)
Drivers Championship – 8 th (20 points)
Teams Championship – 8 th (20 points)

RACE REPORT

ELMS(ヨーロピアン・ル・マン・シリーズ)。全6戦で争われるこのシリーズ。年間チャンピオンには翌年のル・マン 24時間への参戦権が与えられる。

ル・マン 24時間へ参加するにはWECへのエントリーのほか、ELMSやALMS(アジアン・ル・マン・シリーズ)、IMSAなどのシリーズを勝ち上がるか、主催者であるACO(フランス自動車連盟)に実力を認められたチームに与えられる招待枠で参加する他ない。

F1モナコ、インディ500と並んで世界三大レースに数えられるル・マン 24時間は世界中のドライバーが憧れるレースである。ル・マン 24時間はブロンズドライバーとプロドライバー2名、合計3名の組み合わせで争われ。世界3大レースの中で唯一アマチュアのブロンズドライバーが出られるレースである。文字通り世界一速いドライバー、チーム、そしてマニュファクチャラーを決めるレースなのだ。

その参戦権をかけたヨーロパ シリーズであるELMS。第三戦のイモラ(イタリア)戦の模様を現地からのレポートでお届けする。

今年のイタリアは熱波に襲われ、期間中38度まで気温が上昇した。レース当日も暑さが残ったものの、テストデイやフリープラクティス(以下FP)の方が過酷な状況での走行となった。

TEST 1


気温35.3℃

路面温度51.9℃

今回のマシンセッティングはル・マン 24時間での基本セッティングをベースにイモラに合わせてチューニングを施した。木村はTEST1では、まずその感触を確かめながらコースの習熟をしていく。ここでは2セッション行い、1セッション目で習熟を、2セッション目でレースペースの確認をしていく事となった。

セッション1はピットアウト直後に赤旗中断。ピットレーン出口が閉じられてしまいそのまま待機。
アウトラップ中に再度赤旗。ターン5でP2 24号車がストップし、そのまま翌周にピットインを行う。中古タイヤの影響か、車両の振動を訴えるも1:47.9を記録してその時点ではブロンズ2番手タイムだった。
その後も再開後に赤旗が出てしまい、他のドライバーの走行時間を確保する為、そのままピットインしてセッション1を終えた。この時点では1:47.3でブロンズトップであったが、消化不良となるセッションであった。


セッション2では新品タイヤで45分間走行を予定していたが、木村のセッション1の後、エアコンが故障してしまった。それでも灼熱のマシンに飛び込み、走行をこなしていく。流石の木村も集中して走る事が叶わない。

残り15分で一度ピットイン。新品タイヤに交換しつつ、チームは限られた時間でエアコン修復を試みたものの症状は改善しなかった。その中でも1:45.839を記録してブロンズで3番手となる。

残り2分、ターン15で他のカテゴリー車両がスピン。赤旗となり、そのままテスト1は終了となった。

木村は熱波に襲われたイタリアでエアコンなしのまま45分走行した。後に木村が語る所によるとエンジニアからの問いかけが頭に入ってこない状態だったという。マシンから降りてすぐに全身を冷やす措置を行ったが、熱中症の疑いもあったかもしれない。それほどまでに過酷な初日となった。

チームのベストタイムはダニエル・セラが記録した1:43.793。全体3位という結果であった。初日の出だしとしては満足の行くスタートとなった。

TEST 2


気温:36.9℃
路面温度:52.1℃

テスト1でのエアコン故障はテスト2には改善さ

れた。木村はテスト1での熱を逃す為、当初のランプランを変更。最終走者として連続走行を行う事となった。

木村は走行を開始したが、テスト2でも赤旗中断が起きた。エアコンは効いており、体もよく冷えて集中できている。テスト1を終えてからのプロのアドバイスも効き、プロも驚くほどに走りが改善された。1:45.5を記録してブロンズ4番手、最終的に1:44.780までタイムを上げて2番手で終えた。途中ペースの上がらない車両に2度阻まれていた為、それがなければ更に上を狙える状況だった。そのうち1台は格上のシルバードライバーだったが、プレッシャーを与え続けて相手のミスを誘ってパスし、もう一台も同じくミスを誘い、コーナーで膨らんだ所をインを突いて冷静に抜いていった。

チームのベストタイムはダニエル・セラが記録した1:43.512。全体3位という結果であった。

FP1


気温:34.3℃
路面温度:48.3℃

昨日に引き続き最高気温は36℃を予想している。しかし昨日あった爽やかな風はなく、無風で日差しが刺す様に痛い。パドックにいる誰もが「この暑さは厳しすぎる」と挨拶代わりに話をしている。

このFP1ではダニエル・セラ → ベン・タック → 木村武史の走行順でロングランペースやレースのシュミレーションを行う予定だ。

昨日も中古タイヤでの走行になるとマシンの振動が大きくなるという報告を受けていたものの、今回も同様だった。プロ2人もタイヤの振動を訴える。タイヤは共に中古タイヤだ。木村も初日の第1スティントではタイヤバイブレーションを訴えていた。

また、ベン・タックからはコーナー中にステアリングが重くなる現象が報告された。元々の走行プランではベン・タックは中古タイヤで走行を終えて、木村はフレッシュタイヤでの走行開始を予定していたが、車両のチェックを行う為にベン・タックの第2スティントで木村が使用する予定だったフレッシュタイヤを投入。すると振動、ステアリングが重くなる現象もおさまった。

そしてそのタイヤのまま木村にステアリングが渡される。木村は前日のミーティングで確認した走り方をここで確認。そして新品タイヤ、ガソリンも軽めで走行を開始した。

タイミングモニターのバイタルは見事と言っても良いほどにプラチナドライバーのダニエル・セラのラインをなぞっている。

セッション終了まで残り7分のところで
1:44.593を記録してブロンズドライバーでトップタイムを叩き出した。2番手は#59 アストンマーティンで1:44.900秒、次いで3番手は#63 メルセデス・ベンツで1:45.255秒。2番手、3番手との差は大きく、更に44秒台を安定して記録していた。木村は予選に向けて順調に仕上がって来ており、期待の持てる内容で走行を終えた。

チームのベストタイムはダニエル・セラが記録した1:43.021。クラス4位という結果であった。

BRONZE TEST


気温:37.6℃
路面温度:55.5℃

ブロンズドライバーのみに与えられた30分のセッション。ここで木村は予選ペース及びレースペースでの走行シミュレーションを行う予定であった。

ブロンズテストスタート3分前。続々とピットからブロンズドライバーの車両がピットレーン出口を目指して飛び出していく。木村もピットレーン出口にマシンを並ばせる。ピットレーン出口に並んだ場合、エンジンを切らなければならない。各マシンがイグニッションをオフにする。この一瞬だけサーキットにはエンジン音はなくなり、夏の訪れを知らせる蝉の鳴き声だけが響き渡る。

グリーンフラッグが振られ、けたたましい音と共にサーキットは更に熱を帯びていく。アウトラップ含む3周を終えた所でターン5に#74フェラーリがスタックしてFCYとなる。この時点では1:46.746で5番手。木村からドリンクが出ないとの無線が入って来た。しかしチームからはステイアウトをする様に指示があり、そのまま走行する事になる。

そして走行が再開されるも再びFCYが提示される。ここでチームはタイヤ交換も行う為、ピットインを木村に指示した。そしてドリンクに対しても作業が同時に行われた。束の間のピットインで木村はマシンからではなく、メカニックから渡されたドリンクボトルから水分を補給した。グリーンフラッグとなる。この時点でテストに残された時間は約13分。30分のセッションであるから、半分以上は消化してしまっている。ドリンクシステムは残念ながら作動しなかった。外を歩くだけでも息苦しいほどの暑さである。マシンの中で木村はドリンクもなく走り続けねばならない。

そしてその3分後。ターン18のグラベルでP3クラスがスタック。ここでも残り10分でFCYが掲示される。国際サーキットだけあってマーシャルのレベルが高く、瞬く間に車両を引き上げ、残り5分で再度グリーンフラッグとなる。

ラスト1分。1:44.999まで上げたものの、5番手でチェッカーフラッグを受ける事になった。

木村はこのブロンズテストで今までと異なる走りのアレンジを試みていた。そしてセクター1ではプラチナドライバーのダニエル・セラに肉薄するタイムまで縮める走り方を見出す事が出来た。これは大きな収穫となるだろう。

FP2


気温:30.6℃
路面温度:42.2℃

サーキット到着時には雲があり、昨日までの暑さが和らいだものの、走行が始まると暑さが戻ってきた。予報ではこの日の午後にある予選の時間帯に雨が降る可能性があるという事だった。

このセッションではベン・タック → ダニエル・セラとプロが先行して走り最後に木村へと繋ぐプランを立てた。木村は第1スティントでレースペースの確認、第2スティントでは予選シミュレーションを行う事とした。

ダニエル・セラの担当する後半、木村が走行を予定していた時間に赤旗が提示された為、そのまま木村にドライバー交代を行った。

木村がマシンを引き継いだのは残り22分。予定通りフレッシュタイヤでスタートした。木村からは無線でシートベルトがダニエル・セラのサイズのままになっており、かなりタイトだと連絡が入る。しかしチームはそのままロングランペースの走行を約10分実施する事を決定した。

そして2セッション目に突入し、予選シミュレーションを行う。タイヤを交換して木村がスタートした。この時点で残り12分。

徐々にペースを上げて行き、1:44.660で2番手タイムとなるも、その後同じくケッセルから出走する#74 フェラーリがタイムを更新し3番手となって走行を終えた。

チームとしてはベン・タックが記録した1:42.475がベストタイムとなり、クラス2番手で最後の練習走行を終えた。

予選


気温:32℃
路面温度:47℃

ELMSのLMGT3クラスの予選はブロンズドライバーのみで争われる。今回赤旗中断などが多かった為、チームは早めにタイムを出す事が重要と考えた。幸いにもピットレーンの並びからしてGT3で木村の前にあるのは同じくケッセルから出走する#74 フェラーリのみだ。

そして抜群のチームワークにより、ピットレーン出口で木村は最前列にマシンを並ばせる事が出来た。ピットクルーの誰もが空を仰ぎ、雨雲が見えてきているのを見ていた。そしてピットレーンに並んだ木村からも雨雲のある事が無線で報告される。レーダーを見る限り、木村が参戦するGT3の時間は降らなそうだ。

アウトラップを終えた1周目、木村は全セクターでベストラップを記録。全車がコントロールラインを通過しても木村が記録した1:44.633がトップだった。FP2で記録したベストタイムを1周目から上回って見せた。

2周目になると#59 アストンマーティン、#85 ポルシェが木村を上回ってくる。この日の大方の予想ではアストンマーティン、コルベット、メルセデスが速さを発揮するだろうと言われていた。

翌周、木村にピットイン指示が出る。トラックコンディションが改善するタイミングで新しいタイヤに履き替え、さらにタイムを更新する戦略だ。

ここで#62 メルセデスAMGが1:43.799というタイムを記録してトップに躍り出た。木村はこの時点で4番手となる。

残り6分33秒でターン7 において#50 フェラーリがグラベルまでコースアウトして停止。レッドフラッグとなる。

そして全てのマシンがピットインする。サーキット上の木村の位置からしてピットレーン出口に並ぶと後方になってしまう。チームは木村をピットレーン出口に並ばせて、再開後の混乱の中で木村を走らせるよりもピットから出るのを遅らせて前の車とのギャップを作って送り出したほうが良いと言う判断をし、ピットレーンに並ぶのではなく、ピットに並ぶことを木村に指示した。

グリーンフラッグになりレースが再開された。アウトラップを終え、再開後の1周目。木村はアタックラップを敢行していたが、前の車両に阻まれてラップタイムを縮める事が出来ない。

阻まれてしまったこの2周はタイヤが最も作動する周回だった。しかし木村は翌周に全身全霊のアタックラップを行う。これが最終ラップになるだろう。そしてこの周、セクター1で全体ベストを記録。1:44.496までタイムを上げたが、3番手もタイムを縮め、4番手というポジションは変わらなかった。

フェラーリは今回不利なマシンであると前評判があった中でも木村は健闘した。事実、この週末、木村はフェラーリ最速のブロンズドライバーだった。

マシンのポテンシャルを最大限に引き出した結果だ。ガレージに戻り、チームクルー全員から拍手で迎えられる。首をかしげているのは木村本人のみだった。いよいよ明日からが決勝である。グリッドは2列目。上位獲得の条件は整った。

RACE

気温:30.3℃

路面温度:39.8℃

今回のスタート戦略では第一走者の木村が最低でも1時間30分を走行し、シルバードライバーのベン・タック、そしてプラチナドライバーのダニエル・セラに繋いでいく事になった。ブロンズドライバーには最低乗車時間1時間30分が課せられており、早めに前半に消化して、残りはプロに任せる戦略だ。

サイン会、グリッドウォークでの木村の人気は相変わらず高い。7年連続でル・マン 24時間に出場し、そのうち6年をフェラーリドライバーとして戦って来た木村である。ここイタリアでティフォッシ(フェラーリの熱狂的ファン)から人気がない訳がない。ル・マン 24時間でもサイン会に行列が絶えなかったが、イタリアでもその人気は変わらない。むしろファンから注がれる視線はイタリアの方が熱い。

レースはその木村からのスタートである。2周のローリングスタートを終え、グリーンフラッグが振られる。各車一斉に2コーナーのシケインに向けて殺到する。その後も異なるカテゴリーで合計44台のマシンが決して広くはないイモラのコースを駆け抜けていく。

木村は1周目、ターン7で先行するLMP3クラスの動きを見てクラッシュに巻き込まれない様、アウト側に膨らんで走行した。そしてその内の1台が木村の車両と接触してグラベルを走らされる事になったが、走行は続けられる程度のダメージだ。木村がこの動きを予測せずに通常のラインを走行していたら大きなクラッシュになっていただろう。しかしこれによって10番手まで順位を下げてしまう。

その後レースペースに勝る木村は#23 マクラーレン、#51 フェラーリをパスして8番手まで浮上した。前にいる#63 メルセデスは予選をトップ通過し、前評判でも優勝候補に名前が挙げられるチームだ。

残り3時間24分。ターン2のシケイン入り口で木村の前を走行する#63 メルセデスと#86 フェラーリが接触。#86 がコースに戻ってくる形で#63 メルセデスに再度接触した。そしてそこに木村の# 57 フェラーリは行き場がなく追突し、更にすぐ後ろを走行していた#28 LMP2 からも追突され、前後を大きく損傷。レースを終える事となってしまった。

木村の車両は左右のドアを他車に塞がれて出られなくなり、マーシャルから救出された。この時の衝撃は25Gを超えていた。そのままメディカルチェックを受け問題ない事が確認された。

木村は16周の走行とベストタイム1:46.315を記録してイモラを後にする事となった。誰もが不運で避けられない事故だと言う中でも木村は次に繋げる為、それでも自分に出来ることはなかったのかをプロドライバーやエンジニアと話し合いをして、教訓を得ようとしている。その姿勢にチームの誰もが感嘆し、次のレースへ向かう気持ちを作り出していく。モータースポーツはチームスポーツなのだ。木村一人の成長も重要だが、こういった時間の積み重ねでチームの信頼関係が増してチームをより強くしていく。

シリーズの折り返しとなるイタリア戦を終えた木村。次回は昨年優勝を経験したベルギー、スパ・フランコルシャンに戦いの場を移していく。

昨年と比べて現時点でのシリーズランキングは高く、まだ十分にシリーズチャンピオンを狙える位置にいる。7年連続出場した木村と言えどもル・マン 24時間のチケットは遠い。しかし木村は毎戦、毎戦、懸命に8年目のル・マン 24時間のチケットを手繰り寄せている。これからも木村の挑戦を是非応援して頂きたい。

2024-2025 ELMS RACE CALENDAR