2025 ELMS R1 Barcelona

木村の走りが冴え渡りポジションをアップ
開幕戦を0.7秒差の2位でフィニッシュし大量のポイントを獲得

4月6日
カタロニア・サーキット
スペイン・カタルーニャ州バルセロナ
Kessel Racing #57 Ferrari 296 LMGT3
Takeshi Kimura / Ben Tuck / Daniel Serra

Qualifying (Barcelona) – 6th (1:43.419)
Race (Barcelona) – 2nd (+18 points)

Drivers Championship – 2nd (18 points)
Teams Championship – 2nd (18 points)

KIMURA’S COMMENT

「今回は(テストセッション初日はビジネスを優先して不参加だった為)一日走行が遅れて、他車と差をつけられましたが、決勝戦では取り戻せた感じがしました。途中でシミュレーターをしっかりとやりこみました。そのシミュレーターの効果もあって、クルマを動かすオペレーションがきちんとでき、過去一番な走りが出来た気がします。フェラーリが必ずしも最も速くはなかった事は他のチームのリザルトを見れば分かる中で最善を尽くせたのではないかと思います。開幕戦、まずは18ポイントしっかりと取れた事には満足しています。(次戦の)ポールリカールは得意なコースなので、次のレースも期待出来ると思いますし、しっかりと走りたいと思います。」

RACE REPORT

今年もELMS(ヨーロピアン・ル・マン・シリーズ)が幕をあけた。年間のシリーズチャンピオンには翌年のル・マン 24時間への参戦権が与えられる。

ル・マン 24時間へ参加するにはWECへのエントリーのほか、ELMSやALMS(アジアン・ル・マン・シリーズ)、IMSAを勝ち上がるか、主催者であるACO(フランス自動車連盟)に実力を認められたチームに与えられるインビテーションの枠で参加する他ない。

F1モナコ、インディ500と並んで世界三大レースに数えられるル・マン 24時間は世界中のドライバーが憧れるレースである。ブロンズドライバーとプロドライバー2名の合計3名の組み合わせで争われるこの舞台は唯一アマチュアのブロンズドライバーが出られるレースである。文字通り世界一速いドライバー、チーム、そしてマニュファクチャラーを決めるレースなのだ。

その参戦権をかけたヨーロッパシリーズであるELMS。第一戦のバルセロナ戦の模様をお届けする。

開幕戦である今回、3月31日(月)と4月1日(火)にはテストセッションが各日2回、合計4回設けられている。収益不動産のRUF社を経営する木村は創業以来の最高益を更新する年度末とあって3月31日まで仕事をこなし、その足でスペインへ向かった。その為、初日のテストは参加出来ず、他のドライバーと比べて1日走行が少ない状況でのシーズンスタートとなった。バルセロナへ到着してからも東京のオフィスへ指示を出す。サーキットへ到着するまで携帯を手放さず、到着して30分後にはヘルメットをかぶってピットガレージで腕を組み、自身のスタートを待っていた。ジェントルマンドライバーと言えど、ここまで仕事とレースの両方をプッシュしている人間はいないだろう。

元々カタロニア サーキットは木村が得意とするコースである。テストデーを終え、「まぁ、こんなものじゃないかな」という本人のコメントから読み取れる通り、木村にとっての肩慣らしとなる初日を終えた。

翌日と翌々日は走行予定がない。木村は急遽現地のシミュレーターでトレーニングをする事を決定。エンジニアの他、ELMSの見学に来ていたフォーミュラドライバーと共にシミュレーター施設へと向かった。

このシミュレーター施設は自ら開発能力を持ち、F1チームへシミュレーターを提供している企業である。そこで木村用のステアリング、木村のマシンである296 LMGT3のセッティングに合わせてブレーキバランスを調整。モニターも通常のモニターに加えてVRによる臨場感の高い走行体験も合わせて実施。木村は他のドライバーから遅れをとった初日を取り戻すかの様に没頭していく。

ブレーキ踏力もほぼ実車に近い硬さにセッティングした。「タイヤの潰れる感覚が指先から伝わる程リアル。今までマニュファクチャラーが使用するシミュレーターも体感したが、それを上回るリアルさ」と木村に言わしめるほどの完成度の高さだった。

そしてセクター3でのクルマの動かし方を、帯同したフォーミュラドライバーからアドバイスを受け会得。「今まで頑張って曲がっていたコーナーがリラックスして曲げられる様になった」と新たな技術を自身の中に取り込む事ができた。木村は即座にこのシミュレーターの購入を決定。企業名は明かせないが、フォーミュラカーを開発、提供する企業が使用するのと同じレベルのものをCARGUY仕様に仕立て上げ、最後の調整はエンジニア2名を日本に呼んで行い、今後の練習に活用する事にした。

翌日からの2回のフリー走行、ブロンズテストを終えて徐々にタイムを上げて行く木村。ブロンズドライバー最速のラップタイムを刻みつつ予選へ臨んだ。

15分間の予選では途中タイヤ交換のピットインを挟みながらアタックを敢行。木村にとっての本命のアタックラップではコールドタイヤに交換してピットアウト。しかし前方を走る85号車のポルシェに引っかかってしまい0.6秒以上を失う。最終的に1:43.419が予選でのベストタイムとなり、13台中6番手で予選を終える形となった。

翌日の決勝レースは6番手からスタート。スタート直後に74号車フェラーリと59号車アストンマーティンをパスして4番手まで一気にジャンプアップ。その後も安定したラップタイムで走行を続ける。

今回のシミュレーターで会得した「新しい走らせ方」でリラックスしながらも前方を走る50号車のフェラーリに追いついていく。前車との距離を詰め、後ろからプレッシャーをかけ続ける。そしてついに18周目にオーバーテイクに成功し、3番手に浮上した。

チームからルーティーンのピットイン指示で木村の57号車フェラーリが飛び込んで来る。給油とタイヤ交換を見事なチームワークでミスなく行い、木村を送り出した。作業を見ていたKESSEL RACINGのVIP客達からも見事なピットワークに自然と拍手が湧き起こった。

46周目。フルコースイエロー(以下FCY)が提示されると翌周にピットインして9秒間給油。木村がコースへ戻った直後にピットレーンはクローズされた。そしてこのチームの判断が功を奏すことに。

LMP2、LMP3が入り乱れる中でも後続車との差を広げ、そこから20周後の66周目に木村はベン・タックにステアリングを繋いだ。木村がマシンから降りてピットへ向かう際、ピットガレージに集まったクルー全員から拍手で迎えられた。木村はミスなくポディウムに上がれる3番手までポジションを上げて帰って来た。そしてその走りは危なげもなく安定した力強い走りだった事への賞賛の拍手だった。

今回のELMSで新しく迎えたシルバードライバーのベン・タックは驚くほど速い。事実、1:42.715というこの日ファステストラップは彼が刻んでいる。2番手を走行する63号車アイアン・リンクスのAMGにプレッシャーをかける。そして63号車AMGがマシントラブルでピットに入り、2番手に浮上。着実で輝く様な走りを見せたベン・タックは最終走者であるダニエル・セラにバトンを繋いだ。

プラチナドライバーのダニエル・セラはル・マン 24時間で優勝経験のあるドライバーであり、フェラーリのファクトリードライバーでもある。ダニエル・セラはピンク色のポルシェで知られる85号車アイアン・デイムスのポルシェに驚異的なスピードで迫る。毎ラップ、セクター1だけで0.5〜0.6秒タイムを縮める。セクター2とセクター3も0.1〜0.3秒ダニエル・セラの方が速い。そしてあっという間にこの日のポールシッターを追い詰める。

しかしこの展開の中幾度もFCYが導入される。レース残り時間5分のところでリスタート。85号車も必死に逃げる中57号車CARGUYの名前をフロントボンネットに掲げた黄色いフェラーリが85号車アイアン・デイムスを捉え続ける。そしてついにチェッカーが振られたが…0.786秒差の2位でフィニッシュとなった。

4時間の耐久レースでわずか0.786秒差でのフィニッシュ。今季も拮抗したシーズンを思わせる結果だった。

ピットでは全てのスタッフがお互いを称え合っている。本当に優勝を狙えるポジションだっただけに全員が悔しい思いをしただろう。しかしシーズンは始まったばかり。開幕戦をノーポイントで終わった昨年を考えれば18ポイントを初戦で獲得出来たのは上出来である。

ル・マン 24時間を賭けた争いは熾烈さを極める中、木村は次戦、フランスのポールリカールへと向かっていく。

木村、CARGUY、そしてKESSEL RACINGの挑戦は幕を上げたばかりだ。今年も是非注目して欲しい。

2024-2025 ELMS RACE CALENDAR